田中正之

たなか・まさゆき
TANAKA, Masayuki

近現代美術史

Modern Art

教授

Professor

2007年4月着任
1963年東京都生まれ
東京大学大学院修士課程

研究テーマ:

近現代美術史。

キュレーターとしては、『ピカソ:子供の世界』展(国立西洋美術館、'00年)、『アメリカン・ヒロイズム』展(国立西洋美術館、'01年)、『マティス』展(国立西洋美術館、'04年)、Cubisme: l’autre rive – Résonances en Asie(Maison de la culture du Japon, Paris, '07年)、『ムンク展』(国立西洋美術館、 '07年)などを担当。論文としては、「マン・レイにおける女性の目の表現と〈不気味なもの〉」(『美学』'99年12月)、「アリアドネー・ポーズとウォルプタス」(『西洋美術研究』No.5, '01年3月)、"The Uncanny and Man Ray’s Manipulation of Female Eye" (Aesthetics, March '02年)、「マティスの彫刻における「プロセス」:《背中》あるいは宙吊りの彫刻」(『マティス』展カタログ、'04年)、"Les paintures murales cubists en tant que symbols d’un renouveau de la société aux Philippines" (Cubisme: l’autre rive – Résonances en Asie, '07年)など。

TANAKA, Masayuki

Professor


Professor of Art History. Born in Tokyo in 1963. Graduated from the Department of Art History, Faculty of Letters, The University of Tokyo in 1987, completed graduate course, then studied at the Institute of Fine Arts at New York University (1990-95). Curator of the National Museum of Western Art (1990-2007); current position since 2009. Specializes in Western modern and contemporary art history. Curated exhibitions, while at the National Museum of Western Art, include “Picasso’s World of Children” (2000), “Henri Matisse: Process and Variation” (2004), and “Munch: The Decorative Projects” (2007). Published papers include “The Uncanny and Man Ray’s Manipulation of Female Eye” (Aesthetics, 2002) and “The Ariadne Pose and Volputas” (Studies on Western Art, 2001).

研究業績一覧

1.展覧会カタログにおける論文等

『ピカソ:子供の世界』展カタログ、国立西洋美術館、読売新聞社、2000年(論文)「関係性のなかでの子供の構築」
『アメリカン・ヒロイズム』展カタログ、国立西洋美術館、読売新聞社、2001年(論文)「アメリカン・ヒロイズム」
『マティス』展カタログ、国立西洋美術館、読売新聞社、NHK、2004年(論文)「マティスの彫刻における「プロセス」:《背中》あるいは宙吊りの彫刻」(論文)「制作の現場:マティスのアトリエ」(論文)「オダリスクの場景」
『槿の画家 柳瀬正夢』展カタログ、武蔵野美術大学美術資料図書館、2008年(論文)「同志!ゲオルゲ・グロッス−−グロッス研究家としての柳瀬正夢」

2.論文

「青騎士年鑑と同時代の思想」『鹿島美術研究年報』No.14、1997年、pp.199-216.
「マン・レイにおける女性の目の表現と〈不気味なもの〉」『美学』第50巻3号、1999年12月、pp.25-36.
「アリアドネー・ポーズとウォルプタス」『西洋美術研究』No.5、2001年3月、pp.103-123.
"The Uncanny and Man Ray's Manipulation of Female Eye" Aesthetics, March 2002, pp.51-60.
「アンドレ・ドラン《ジャン・ルノワール夫人(カトリーヌ・エスリング)の肖像》に関して」『国立西洋美術館研究紀要』No.10、2006年3月、pp.6-24.

3.翻訳

ユリアン・ハイネン「男とネズミ」『ヨーロッパからの8人、カタリーナ・フリッチュ』群馬県立近代美術館、1998年
ロミー・ゴラン「エコール・フランセーズVSエコール・ド・パリ」
『西洋美術研究』No.4、2000年10月、pp.84-96.
ロバート・S・ネルソン、リチャード・シフ編『美術史を語る言葉:22の理論と実践』ブリュッケ・星雲社、2002年2月(共訳)
ニール・コックス著『キュビスム』岩波書店、2003年4月

4.エッセイ等

「美術史を読む ノーマン・ブライソン、絵画という記号」『美術手帖』1996年1月号、pp.126-146.
「美術史を読む T. J. クラーク、絵画とイデオロギー」『美術手帖』1996年3月、pp.120-139.
「美術史を読む グリゼルダ・ポロック、フェミニズムと美術史」
『美術手帖』1996年6月号、pp.142-166.

「(書評)Linda Nochlin and Tamar Garb, eds. The Jew in the Text : Modernity and the Construction of Identity; C. M. Soussloff ed., Jewish Identity in Modern Art History」
『西洋美術研究』No.4、2000年10月、pp.166-70.
「(展覧会評)マティス・ピカソ展」『読売新聞』2003年4月2日(夕刊)
「(展覧会評)シュルレアリスム革命展」『西洋美術研究』No.9、2003年5月、pp.215-220.
「人はどのように自画像を描くのか」『芸術は何を超えていくのか』東進堂、2009年、pp.94-102.

5.口頭発表、講演、シンポジウム等

「ドイツとフランス――20世紀美術史の歴史叙述」東京都現代美術館、1997年11月22日(講演)
「マン・レイにおける女性の眼への操作」美学会東支部例会、於成城大学、1999年7月(口頭発表)
「近代の子供観とピカソ」国立西洋美術館、2000年5月27日(講演)
「統一の象徴としての英雄:南北戦争と歴史画」国立西洋美術館、2001年8月7日(講演)
「都市と美術:ニューヨーク、ニューヨーク近代美術館とメトロポリタン美術館」如水会館、2003年11月18日(講演)
「アジアのアヴァンギャルド:近代受容期の美術運動-1930~1940年代」国際交流基金アジア・センター、2004年2月3日(モデレーター、シンポジウム)
「マティスの彫刻におけるプロセス」国立西洋美術館、2004年11月13日(講演)
「マティスにおけるプロセスの問題」東京大学文学部、2004年11月16日(講演)
「フランス絵画におけるモダニズムと伝統:モネからマティス、ピカソまで」ブリヂストン美術館、2005年2月5日(講演)
「アジアのキュビスム」国際交流基金フォーラム、2005年9月10-11日(セッション3「身体・ジェンダー・色彩・装飾」発表者・パネリスト、シンポジウム)
「西洋近現代美術作品の解釈とジェンダーの問題」埼玉大学&With You さいたま主催、 於With You さいたま、2005年12月11日(講演)
「美術館とナショナルなるもの」日本学術振興会、人文・社会科学振興プロジェクト研究事業、第5領域横断フォーラム『ミュージアムに未来はあるか~その可能性と課題』於東京グリーンパレス、2006年6月29日(発表者・パネリスト、シンポジウム)
「装飾の政治性」国際交流基金『Count 10 Before You Say Asia ポストモダニズム以降のアジア美術』2008年11月22-23日(発表者・パネリスト、シンポジウム)



研究概要

これまでの私の研究を通底する問題意識は、美術の歴史を語る「叙述」と「作品解釈」の方法論、および従来の歴史叙述や解釈が伴ってきた価値観の見直しである。自分の主たる専門分野である欧米の近現代美術史は、20世紀の初頭以来、「絵画の自律性」という価値基準によってその歴史が語られ、このような価値観、歴史観は、「モダニズム」と呼ばれている。しかし、1970年代以降このモダニズムは、とりわけ英米において疑問視されるようになり、現在では、様々な問題意識に基づいた歴史叙述の可能性が模索されるようになった。新たな歴史叙述、作品解釈は、「芸術」「美(学)」「傑作」「巨匠」「天才」「感性」「趣味」「制作」「鑑賞」「作者の主体や意図」「作品の完成」といった従来の美術史、美術批評においてあまりに自然なものとして扱われてきた概念を疑問視することも伴うものでもあった。美術というものが、実はそれぞれの時代や地域の状況や歴史によって条件付けられたもので、認識論的な問題やイデオロギーと深く関わり、同時代のさまざまな言説(政治的、社会的なものを含めて)と関連しているものであるというのが、現在の見方となっている。この新たなアプローチによって、芸術作品を対象とする研究は、「精神の涵養」や「感受性や趣味の洗練」に資するだけでなく、むしろイメージなるものを基本的な拠り所として、人間の歴史的営為を探求する学問としての可能性を開いてきたと言える。私の研究も、その可能性の追求の一助となることを目指してきたつもりである。
それらの新たな歴史叙述や作品解釈の試みが英米でどのようになされているのかに関して、私はかつて雑誌の連載や翻訳というかたちで紹介を行ったが(研究業績一覧3、4を参照)、それは、これらの新しい研究が日本においては、その文章の難解さもあって、実際の議論がきちんと理解されていなかったためであった。もはや10年以上の年月が経過した今では、他の多くの研究者によるさらに新たなアプローチも数多くなされてきたが、方法論上の衝撃という点では、いまだにこれらの研究者たちがもった力は大きかったと思われる。
近現代美術作品を、その形式の問題だけではなく、むしろその意味を広い文化的コンテクストのなかでの問題として扱ったものが、『ピカソ:子供の世界』、『アメリカン・ヒロイズム』、『マティス』といった展覧会のかたちで発表してきたものである(研究業績一覧1を参照)。『ピカソ:子供の世界』においては、ピカソが偏愛したといってもよい様々な子供の表象を探りつつ、「子供」なるものが持つその文化的意味について論じている。『アメリカン・ヒロイズム』は、形式や様式の歴史としてはでないアメリカ美術の歴史を、「英雄」をめぐる表象を土台として論じたもので、建国以後のアメリカにおける「神話や伝統の創設」とその「脱神話化」のなかで、イメージが行ってきた「パフォーマンス」を扱っている。また『マティス』展カタログに掲載した論文では、マティスの彫刻作品におけるプロセスの前景化と、目的論的発展史というかたちでの叙述や、それが必然的にはらむ「作者の意図の達成」といったことをめぐる議論を展開した。これは今後、作品の生産という行為のなかで構築される作者の主体という問題へと展開させていく予定である。
論文「アリアドネー・ポーズとウォルプタス」(研究業績一覧2を参照)は、作品の意味の起源を問題としたもので、作品の意味とは、作品に内在しているのではなく、歴史的に様々な言説と関わりを持つなかで構築されるものであるということを、ひとつのポーズをめぐる言説や表現を通じて論じたものである。「マン・レイにおける女性の目の表現と〈不気味なもの〉」(研究業績一覧2を参照)は、シュルレアリスムおいて企図されていた「主体からの主体性の剥奪」という問題を、イメージではそれがどのようにして可能だとされていたのかについて、マン・レイの写真において女性の眼差しがどのように表現されているかを考察することによって論じたものであり、この「主体と主体性」という問題は、さらに『シュルレアリスム革命』展の展覧会批評(研究業績一覧4を参照)というかたちで論じている。
歴史叙述の問題に関しては、ドイツとフランスの対立のなかでの問題やモダンアートと伝統の関わりの問題を講演において論じ(研究業績一覧5を参照)、「マティス・ピカソ」を二大巨匠とする歴史観の成立に関しても、欧米で開催された『マティス・ピカソ』展の展覧会評のなかで論じている(研究業績一覧4を参照)。 ページの最初へ