更科功

さらしな・いさお
SARASHINA, Isao

分子古生物学

Molecular paleontology

教授

Professor

2022年4月着任
1961年東京都生まれ
東京大学大学院理学系研究科
博士課程修了
博士(理学)

研究テーマ:

化石中に存在するタンパク質やDNAの解析、および約5億年前のカンブリア紀における動物の多様化と硬組織の進化。

主な著書(単著)
『「性」の進化論講義』PHP新書 '21年
『未来の進化論』ワニブックスプラス新書 '21年
『理系の文章術』講談社ブルーバックス '20年
『若い読者に贈る美しい生物学講義』ダイヤモンド社 '19年
『残酷な進化論』NHK出版新書 '19年
『進化論はいかに進化したか』新潮選書 '19年
『絶滅の人類史』NHK出版新書 '18年
『爆発的進化論』新潮新書 '16年
『絵でわかるカンブリア爆発』講談社 '16年
『宇宙からいかにヒトは生まれたか』新潮選書 '16年
『化石の分子生物学』講談社現代新書 '12年

SARASHINA, Isao

Professor


I have explored ancient animal evolution by examining biomolecules in fossils and extant animals. One of my interests is to understand what is the trigger for the Cambrian explosion, the most extreme biological radiation preserved in the fossil record. The Cambrian explosion occurred in the period from approximately 529 to 514 million years ago when practically all major animal phyla started appearing. A possible driver for the Cambrian explosion is the increase in interaction between species, such as predation, that drove an escalating process leading to the development of biominerals as shells, bones, and teeth. I have studied the molecular mechanism of biomineralization to unveil the role of biominerals in the Cambrian explosion.

死なない幽霊

 私は子どものころから幽霊やお化けが大好きでした。『オバケのQ太郎』や『墓場の鬼太郎(後に『ゲゲゲの鬼太郎』)』のようなマンガを読んで、好きになったのがキッカケだったかもしれません。
 成長するにつれて、私は幽霊やお化けに、実際に会いたくなってきました。そして、状況が許せば、なるべく夜の墓地を歩いたりして、幽霊との出会いを目指すようになりました。心霊スポットのようなところにも、できるだけ出かけるようにしていました。
 しかし、そんな努力も空しく、まだ私は幽霊に会ったことがありません。たいへん残念なことです。でも、だからといって、とくに私が変わり者だというわけではないでしょう。よく考えてみれば、あなただって、きっと幽霊に会いたいと思っているはずです。だって、幽霊に会えたら、死ななくてもよいのですから。
 幽霊というものは、すでに死んだ者が何らかの形で活動を続けている存在です。活動を続けているのだから、幽霊は生きていると言ってよいでしょう。つまり、幽霊は死んでも生きているのです。
 じつは、私が子どものころ幽霊に会いたかったのは、死にたくなかったからです。幽霊が存在するならば、何らかの形で死後の世界も存在するはずだ、と考えたのです。
 ところが、生物の世界には、すでに私の夢を叶えたものがいます。夢といっても、幽霊に会うほうの夢ではなくて、死なないほうの夢です。つまり、死なない生物がいるのです。
 たとえば細菌です。細菌は、環境さえよければ無限に分裂を続けて生きていくことができます。もちろん、細菌だって事故などで死ぬことはありますけれど、そういうことがなければ永遠に生きていけます。現在生きている細菌は、生命の誕生以来およそ40億年ものあいだ生き続けた結果として、今ここにいるのです。
 地球に最初に生まれた生物は、細菌のように死なない生物だったに違いありません。私たちヒトのように寿命があって、かならず死ぬと決まっている生物は、生命の歴史の後半になって現れた新参者なのです。生物の基本形は、死なない生物なのです。


死なない生物と死ぬ生物

 生物の体の中には、かならず流れがあります。私たちの体の中にも、流れがあります。私たちの体を作っている物質は、ゆっくりと入れ替わっているのです。それは、排泄物のことを考えると納得できるかもしれません。
 私たちの便には、食物の残りかすと同じくらい、私たちの体を作っていた細胞の死んだものが含まれています。つまり、私たちの体の成分は、毎日のように体の外へ流れ出しているのです。さらに便以外にも、垢や尿や抜け毛や汗などによって、私たちの体はつねに外へと流れ出しています。それを補うために、私たちは食事をしなければなりません。つまり、私たちの体には、日々物質が入っては出ていくという流れがあるのです。
 生物のように、流れがあるのに形がほぼ一定に保たれている構造を散逸構造といいます。散逸構造のほかの例としてはガスコンロの炎や台風などがあります。
 ガスコンロの炎はだいたい楕円形で、先が細くなった形をしています。しばらく見ていても、炎の形は変化しません。しかし、変化しないでいられるのは、ガスが供給され続けているからです。ガスはコンロの中から出て、酸素と結合して、二酸化炭素と水になって、空気中へ広がっていく。その流れの中に、炎は存在するのです。
 ガスコンロの炎に寿命はありません。ガスが供給されているかぎりは、いつまでも燃え続けます。若い炎も年老いた炎もありません。それが散逸構造の特徴です。散逸構造は年を取らないのです。
 生物も散逸構造ですから、基本的には死にません。さきほどもいいましたが、たとえば細菌は環境さえ悪くならなければ死にません。永遠に分裂しながら生き続けるのです。
 でも、私たちは寿命があります。生物が進化していくあいだに、一部の生物には寿命というものが進化したのです。どういう生物に寿命が進化したのかというと、どうやら複雑な生物には寿命が進化する傾向があるようです。ただし、寿命については、まだわからないことがたくさんあります。私たちがかならず死ぬことについても、まだわからないことがたくさんあります。生物学には、まだわからないことがたくさんあるのです。そういうたくさんの謎について、講義や実習などを通してみなさんと考えていきたいと思っています。


主な著書

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『化石の分子生物学』

講談社現代新書 2012年


化石の中にあるDNAの99パーセントは、後の時代に外部から混入したものです。その化石に由来するDNAを、外部から混入したニセモノのDNAと区別することは、大変難しいのです。しかし、それこそが非常に大切なことでもあります。20世紀の末には恐竜のDNAが見つかったことが華々しく報道されましたが、後にそれはニセモノだと判明しました。科学の発展はまっすぐに進むものではなく、紆余曲折しながら進んでいくことを、具体例を挙げながら解説しました。


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『残酷な進化論』

NHK出版新書 2019年


恐竜は古い生物で、私たち哺乳類は新しい生物というイメージがあるようです。しかし、実際には、恐竜と哺乳類はほぼ同時(約2億3000万年前)に地球上に現れました。そして、陸上生活によりよく適応し、身体能力も高かった恐竜が、哺乳類を抑えて繁栄したのです。しかし、巨大な隕石の衝突という偶然の出来事によって多くの恐竜が絶滅し、私たち哺乳類の時代が訪れました。私たちが必ずしもすぐれた存在ではないことを、さまざまな側面から説明していきます。


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『未来の進化論』

ワニブックスプラス新書 2021年


魚を陸上で育てたらどうなるか。そんな実験が2014年に行われました。魚は水中で呼吸ができるように鰓を持っていますが、じつは一部の魚は鰓に加えて肺も持っています。肺を持っている魚は空気中でも呼吸ができます。そんな魚の一種であるポリプテルスを陸上で育てたら、上手に歩くようになったそうです(本当です!)。そんな実験などを通して、未来の生物の進化について考察しました。


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『「性」の進化論講義』

PHP新書 2021年


マンモスは巨大な牙を持っていますが、大人のオスでは大きく牙が曲がっており、しばしば自分のほうを向いています。これでは、敵と闘ったり、土を掘ったりすることはできません。それどころか、自分にとって危険でしょう。こんな役に立たない牙が、どうして進化したのでしょうか。その理由は、「性」が存在するから、つまりオスとメスがいるからです。生物学最大の謎の一つである「性」について、科学的な観点から、さまざまなエピソードを紹介していきます。



主な論文

Yukinobu Isowa, Isao Sarashina, Kenshiro Oshima, Keiji Kito, Masahira Hattori, Kazuyoshi Endo (2015) Proteome analysis of shell matrix proteins in the brachiopod Laqueus rubellus. Proteome Science, doi: 10.1186/s12953-015-0077-2.

Miyamoto H, Endo H, Hashimoto N, Limura K, Isowa Y, Kinoshita S, Kotaki T, Masaoka T, Miki T, Nakayama S, Nogawa C, Notazawa A, Ohmori F, Sarashina I, Suzuki M, Takagi R, Takahashi J, Takeuchi T, Yokoo N, Satoh N, Toyohara H, Miyashita T, Wada H, Samata T, Endo K, Nagasawa H, Asakawa S, Watabe S (2013) The diversity of shell matrix proteins: genome-wide investigation of the pearl oyster, Pinctada fucata. Zoolog Science, doi: 10.2108/zsj.30.801.

Yukinobu Isowa, Isao Sarashina, Davin H. E. Setiamarga and Kazuyoshi Endo (2012) A comparative study of the shell matrix protein Aspein in pterioid bivalves. Journal of Molecular Evolution, vol. 75, pp. 11-18.

Keisuke Shimizu, Isao Sarashina and Kazuyoshi Endo (2011) Possible functions of Dpp in gastropod shell formation and shell coiling. Development, Genes and Evolution. Vol. 221, pp. 59-68.

Mito T, Nakamura T, Sarashina I, Chang CC, Ogawa S, Ohuchi H, Noji S (2008) Dynamic expression patterns of vasa during embryogenesis in the cricket Gryllus bimaculatus. Dev Genes Evol, Vol. 218, No. 7, pp. 381-387.

Sarashina, I., Kunitomo, Y.,Chiba, S., Iijima, M. and Endo, K. (2008) Preservation of the shell matrix protein Dermatopontin in 1500-year-old land snail fossils from the Bonin islands. Organic Geochemistry, 39, 1742-1746.

Sarashina, I. and Endo, K. (2006) Skeletal matrix proteins of invertebrate animals: Implication for the origin of metazoan biomineralization. Paleontological Research, 10, 311-336.

Sarashina, I., Yamaguchi, H., Haga, T., Iijima, M., Chiba, S. and Endo, K. (2006) Molecular Evolution and Functionally Important Structures of Molluscan Dermatopontin: Implications for the Origins of Molluscan Shell Matrix Proteins. Journal of Molecular Evolution, 62, 307-318.

Sarashina I, Mito T, Saito M, Uneme H, Miyawaki K, Shinmyo Y, Ohuchi H, Noji S. (2005) Location of micropyles and early embryonic development of the two-spotted Gryllus bimaculatus (Insecta, Orthoptera) (2005) Development Growth and Differentiation, Vol. 47, pp. 99-108.





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