三澤一実

みさわ・かずみ
MISAWA, Kazumi

美術教育、鑑賞教育

Art Education

教授

Professor

2008年4月着任
1963年長野県生まれ
東京芸術大学大学院
美術研究科修士課程修了

研究テーマ:

美術教育。美術教材の題材開発及び評価についての研究。美術館と学校との連携及び地域との連携活動の研究。
映画「絵を描く子供たち」と戦後の美術教育雑誌によるインスタレーション(穴澤秀隆)

映画「絵を描く子供たち」と戦後の美術教育雑誌によるインスタレーション(穴澤秀隆)


図画工作・美術なんでも展覧会

2007年3月に開催された「図画工作・美術なんでも展覧会」は非常にユニークな展覧会として展覧会が終わった今でも話題に上ります。例えば、展示が図画工作・美術という義務教育の教科に関する内容であったこと。全国各地の美術館の教育普及活動を展示にしたこと。ネットを使って企画が練られ、出品者が決まっていったこと。コレクター、編集者、教育者…それぞれの専門を生かしたコラボレーションの中で生まれた展覧会であることなど。従来の展覧会スタイルとは大きく異なる内容と手法で運営された展覧会でありました。
そのスタートは、彩ネットというメーリングリストに載せた1通のメールがきっかけです。「唐突ですが、皆さん、うらわ美術館で展覧会をしましょう。期間は3月14日から18日。展覧会名は『図画工作・美術なんでも展覧会』。今現在の、図画工作・美術をあらゆる角度から見てみようという展覧会です。…図画工作・美術の枠組みを、ちょっとだけ広げて、立体的に見てみませんか。企画はこれから立ち上げます。」
この無謀とも思える呼びかけに多くの方々が賛同し、2ヶ月に満たない準備期間の中で展覧会が実施できました。見方を変えると図画工作・美術について何らかの社会的アクションを起こしたいという参加者の思いに支えられたということになるのでしょう。
今回の「図画工作・美術何でも展覧会」はWebを介して情報を共有し創り上げる新たな展覧会のスタイルを提示しました。ブログを立ち上げ展覧会まで1ヶ月間で集積したアイデアや意見は182件。それらの意見や展覧会開催までのノウハウがWeb上にアーカイブとなっております。遠方にいながらインターネットを介して展覧会の企画に参加する事ができたのです。そのような情報を駆使して創り上げた展覧会ですが、展示したものは実体のあるものでした。情報という形のないものを実体化する作業が今回の展覧会であったような気がします。そして、展示で示そうとしたものは〈図画工作・美術の学力〉でした。この学力もまた目に見えにくいものです。このように見えないものをどのように見ていくかを、教育の実践を集め、視覚化させていく作業がこの展覧会の役割でありテーマであったのです。
イメージを具体的な形に創り上げる力はまさに図画工作・美術の力と言えましょう。まさに、この展覧会自体が、今まで造形美術教育が育んできた力の上に成り立っているものなのです。さて、見えないものを形にする作業はまだまだ続きます。これから出版される『1 億人の図工・美術』も、展覧会というすでにその実態が消えてしまった展覧会を記録集として実体化していく作業に他なりません。この記録集を見ながら想像を広げてください。今日もまた図工・美術で培う学力を、子どもたち一人ひとりに身につけさせ具現化していく先生方の取り組みが全国津々浦々で休むことなく行われているのです。まるで子どもたちを育てるように粘り強く、あきらめずに。
記録集『1億人の図工・美術』あいさつより

117_2a.jpg


美術教育の未来を考える

『美術教育の動向』

『美術教育の動向』

大坪圭輔、三澤一実編
武蔵野美術大学出版局 2009年
『美術―表現と鑑賞』

『美術―表現と鑑賞』

日本造形教育研究会(共著)
開隆堂出版株式会社 2006年


平成20年3月、今後10年の教育の方向を示す学習指導要領が示された。他教科が授業時間数を増やす中、芸術教科は時間数の増加がなかった。中学校では選択教科が廃止になった。その結果、選択教科で授業時間数を稼いでいた美術科教師の受け持ち授業時数はかなり少なくなる。つまり今後、中学校の美術教師は、美術以外の教科を教えたり、または、複数校の美術を掛け持ちで教える事も増えてくる。教員採用に関しては、美術教師は非常勤が増え、学校教育全体に美術の教員が関わる機会が大幅に減ってくる。行政の視点では、教員1名を新規採用するのに初年度に約1000万円かかる。持ち時間の少ないことを理由に非常勤で対応すれば、その何分の1の費用で済む。非常勤の教員はワーキングプアーになり、生徒たちは学校で美術に触れる機会が減少する。学校における美術文化は衰退していく…。こんな社会は見たくない。
今後の美術教育を展望すると、美術と社会の接点を教育という視点から再点検することが急務である。例えば、アーチストについて言えば、アーチストの才能が社会に還元され、その時点でアーチストの存在が意味を持つ。そのためには、アートの働きを多くの人々に自覚してもらわなければならないのである。美術教育の役割がここにも潜んでいる。


北御牧村写真プロジェクト

『10000の瞳―北御牧村写真プロジェクト―』

『10000の瞳―北御牧村写真プロジェクト―』

みまき写真実行委員会編
日本文教出版 2005年

平成16年、合併が決まった人口5700人の長野県北佐久郡北御牧村(きたみまきむら)。その村の全村民(6歳以上)にフィルムを配布し「将来に残したい北御牧の風景」をテーマに思い思いの写真を撮影してもらった。そして1人1枚提出してもらった。
写真には写す人の思いが表れる。誰もが持っている表現したい気持ちは、撮影というプロセスを経て写真に写し出される。そして、撮影された多数の写真から他者に見せたい1枚を選ぶ行為も表現のための大切な選抜作業となる。その個人の関わりを通して提出された写真を一堂に並べてみたときに、そこには、村民1人1人が朧気に認識していた地域がはっきりと映し出されてくる。
北御牧写真プロジェクトは、住民自ら自分たちの住む地域を写真によって確認していく作業であった。このプロジェクトの企画から運営、そして記録集発刊まで、村民と一緒に丸2年を費やした。この記録集は1人1枚写真、作家とのコラボレーション、テーマ別展示、シンポジウムの記録などから構成されている。
論文「美術教育における写真活用の一考察―北御牧村写真プロジェクトから―」ではこのプロジェクトの果たした意味を検証してみた。特に写真という表現ツールは、カメラさえあれば誰にも写すことは可能である。言い換えると、誰でも表現者として各自の思いを視覚的に伝達することが出来るということだ。そこで、普段、自覚することなく過ごしている地域の文化を、何気ない日常を撮影することにより映像化してみる。撮影者は必ずしも地域文化を意識し撮影はしていないが、写された写真には彼らが暮らしている世界が映っている。あらためて、彼らが撮った写真をながめてみると、そこには1人1人の目を通して映し出された地域文化が見事に描き出されている。住民自ら地域文化を意識する手段としての写真の可能性について論じた。 ページの最初へ