金子伸二

かねこ・しんじ
KANEKO, Shinji

生活デザイン

Theory of Design, Study of Mass Culture and Social History of Knowledge

芸術文化学科

教授

Professor

2002年4月着任
1964年千葉県生まれ
上智大学大学院哲学研究科哲学専攻博士前期課程修了

研究テーマ:

近代日本における造形認識の形成に関する研究。

著書:『編集研究』武蔵野美術大学出版局 '02年(共著)、『造形学研究』武蔵野美術大学出版局 '03年(共著)、『造形学概論』武蔵野美術大学出版局 '04年(単著)、『教養としての編集』武蔵野美術大学出版局 '09年(共著)。
論文:「『現代批評理論』における「慣習」概念の諸相」『武蔵野美術大学研究紀要』No.35 '04年、「ニーチェ『ヴァーグナーの場合』におけるカルメン論の構造」『武蔵野美術大学研究紀要』No.38 '07年、「ブルーノ・タウトと清水多嘉示 昭和戦前期における信州・上州出身の知識人層」平成17年度〜平成19年度科学研究費補助金(基盤研究(B))『「ブルーノ・タウト遺品および関連資料」に関する調査研究』'08年。

KANEKO, Shinji

Professor


Education: Sophia University, Graduate School of Philosophy, Master's Program.
Discipline: Theory of Design.

研究活動

ブルーノ・タウトと清水多嘉示 昭和戦前期における信州・上州出身の知識人層

この論文は、岩波書店が所蔵し創造学園大学が保管するブルーノ・タウトの遺品に関する調査研究における一報告として記したものです。滞日中のタウトの周囲にあった日本人たちの人間関係を、清水多嘉示との関係の成り立ちを着眼点にしながら、再点検したものです。特に注目したのは東急グループの創始者である五島慶太と、内務省警保局長を務め戦後は法務大臣になった唐沢俊樹という二人の人物です。タウト滞日期間の後半、群馬県高崎市での工芸指導の活動を支えたのは井上房一郎でしたが、そのタウトと井上とをつなぐ人間関係の中心にいたのが五島と唐沢でした。来日当初よりタウトの世話をした建築家の久米権九郎の義兄が五島ですが、唐沢は学生時代から五島との交流を持ち、後にその唐沢の義弟となるのが井上だったのです。清水多嘉示はこの井上と、パリの彫刻家ブールデルのアトリエで同門でした。清水は唐沢とも知己の間柄で、昭和10年に清水がタウトを帝国美術学校の教授に招こうと打診した背景には、こうした人と人とのつながりがあったことをこの論文で説明しています。
また、タウトが高崎に滞在している間の活動について群馬県立文書館所蔵の関連史料を探索する作業によって、井上が取り組んでいた工芸振興事業とタウトとの関わりや、昭和9年に群馬県で実施された陸軍特別大演習並地方行幸に際して県から宮中に献上された工芸品をめぐる状況についても報告し、タウトの役割を強調するこれまでの説に対する疑問を提示しています。


美術全集と東山魁夷 編集の作為を読み解く

通信教育課程の教科書『編集研究』の改訂版である『教養としての編集』のために書き下ろした小論です。『編集研究』に寄稿した「戦後出版における百科事典」では参考図書(レファレンス・ブック)を資料とし、同じく通信教育の教科書である『造形学研究』に収録された「『紙のうえの都市』フィールドノート」では雑誌資料をもとに論を組み立てたので、今回は美術書の代表である美術全集を資料として、編集的な観点による論考に取り組みました。直接の題材としたのは戦後に出版された美術全集のうち、「日本人が最も愛した画家」ともいわれる東山魁夷を取り上げた巻6種類です。この6点の全集を形式面や内容面で比較することにより、美術全集という出版物の特徴や性格を考えてみようというのが、この論の狙いです。
具体的には各巻ごとの作品配列の仕方から作家である魁夷の仕事に対する編集上の捉え方を読み取り、とりわけ代表作「道」と「唐招提寺障壁画」の位置づけが示す問題を考察しています。また、図版鑑賞に向けた造本構造上の工夫やテキストである解説文の役割、美術全集が作家をどのような存在として読者に提示しているかなどについて実際の全集に即して論じています。作家についての一般的なイメージを形成するにあたって美術全集の編集行為が大きく関わっていることを、限られた資料の分析作業をとおして発見することができました。


サブカルチャー

高木隆司ほか編『かたち・機能のデザイン事典』(丸善 2011年)で「サブカルチャー」の項目執筆を担当しました。
事典の1項目ですから字数は2000字程度と限られています。加えて私自身はサブカルチャーの最新動向に特に精通しているわけでないので、手持ちの材料をネタにして書くというわけにもいきません。そこでサブカルチャーについて、それこそ国語辞典で言葉の意味を確かめるところから調べて勉強することになりました。サブカルチャーは「サブ」な「カルチャー」ですから、カルチャーの意味が決まっていれば、あとはその「サブ」なものですよとすれば、ひとまず言い換えたことになります。無理やり日本語にすると「下位文化」と訳される場合が多いようです。百科事典でサブカルチャーの項目を読むと、サブカルチャーとはこういうもののことですよ、ということが書かれています。つまり、その項目の書き手が抱いているサブカルチャー観に基づいて、サブカルチャーという言葉の指示する対象が説明されているわけです。
記事は10の段落で構成されています。第1段落で用語を簡潔に定義しています。第2段落から第5段落までが1節を成しています。ここで説明するのはサブカルチャーという言葉の指示する対象ではなく、サブカルチャーという言葉がどのように研究上の概念として成立してきたかということです。第6段落から第10段落までの節では、サブカルチャーがデザインとどのように関わるのかを説明しています。サブカルチャーの概念を取り入れることによってデザイン行為やデザイン研究に起こりうる展開を示すとともに、それが孕む危険性についても指摘しています




教育活動

所属する通信教育課程では、芸術文化学科造形研究コースの「造形学概論」「造形学研究」「媒体組成研究」という授業科目の通信授業を主に担当しています。3科目の課題を関連づけることによって、叙述における用語や言い回しの意味の把握、書き手が持つ価値や前提の発見、叙述内容と典拠資料との相関分析、古典的文献の読解と援用という、人文科学の基礎的な研究方法の学習が体系的に行えるよう工夫を試みています。
「造形学概論」では「作品」という言葉の持つ意味について、歴史的な変化を踏まえながら自身の理解を説明する課題、次に自身で選んだ一つの美術作品についての異なる著者による説明叙述を探索して比較読解し、叙述の内容と著者の視点との関係を見い出す課題を実施しています。ふだん何気なく目にしている作品解説がいかに著者の美術観・研究姿勢と結びついたものであるかに気づいてもらうことが狙いです。
「造形学研究」は、自身で設定したテーマに関連する書籍から当該テーマに関する基本文献の目録を制作する課題、次にその書籍の叙述をもとに年表を制作することで書籍の内容分析をする課題です。愉しい「読み物」としての本を自身の研究のための「資料」として捉え直す視点を持ってもらうことを意図しています。
「媒体組成研究」ではヴァルター・ベンヤミンの「複製技術の時代における芸術作品」の読解を経て、論述のキーワードについて図版とキャプションを組み合わせて自身の解釈を説明する課題を行っています。自分だけではおそらく読まないだろう重要文献をとにかく読む体験と、書かれている事柄を自分と関わりのある問題として理解しようとする姿勢を持ってもらうことが目標です。
同じく通信教育課程の「卒業制作」では、研究論文の指導を行っています。学生の多様な学習歴や多岐にわたる関心を前提にしながら、論文に求められる基本的な要件が達成できるよう、研究計画から途中の経過報告、草稿から完成稿の執筆など、限られたやり取りの機会の中で具体的な指導ができるよう図っています。テレビや出版物、インターネットなどで美術に関する情報が容易に手に入る現代では、学生はメディアによるバイアスのかかった美術観に浸かった状態で論文のテーマを設定することになります。実際に研究に取り組み、一次資料を直接分析することを通して、テーマ設定の段階では自明のことと思っていた自らの美術観を捉え直し、問題設定自体を再考して、対象に対する理解を深めてほしいと思っています。また、主に話し言葉によって成り立つ生活上の思いと、主に書き言葉によって成り立つ学問的な考えとを結び付けていく機会になればと願っています。まだまだ改善の余地が大きいところです。

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