神野善治

かみの・よしはる
KAMINO, Yoshiharu

民俗学、博物館学

Folklore and Museum Studies

教授

Professor

1997年4月着任
1949年東京都生まれ
慶應義塾大学卒業
博士(民俗学)國學院大学

研究テーマ:

自然と人間と技に関わる造形文化の総合的な研究。とくに民俗信仰・説話など無形の世界と有形文化の接点に関心がある。

著書:『人形道祖神―境界神の原像―』白水社 '96年、『木霊(こだま)論―家・船・橋の民俗―』白水社 '00年など。
編著:『ミュージアムと生涯学習』武蔵野美術大学出版局 '08年、『日本のくらしの知恵事典』岩崎書店 '08年。
東京品川区生まれ。中学担任で民謡研究家のN先生から民俗学を、高校では美術部顧問の日本画家(のち武蔵美教授)のM先生から指導を受ける幸せに恵まれる。大学紛争期の学生時代は宮本常一の著作に触発されて旅に明け暮れ、日本各地の生活文化の面白さに目を開かれた。
25歳から伊豆海辺の小さな博物館の学芸員になり12年余り活動。漁労民俗のテーマで、'86年に日本民俗学会研究奨励賞を受賞。のち、文化庁の文化財調査官として全国の祭りや民具コレクションなど民俗文化財保護と博物館づくりなどに10年間奔走する。
20代から追求した東日本の村境に立つ巨大な人形群をテーマにした研究で、'97年第36回柳田國男賞を受賞する。
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フィールドワーク

私の研究の原点は「旅」と「博物館」。ときにはアジアの農村地帯などを歩くのが楽しみですが、主なフィールドは日本各地の農山漁村。さかんに旅に出るようになったころ、日本は高度経済成長のただ中にありました。それでも茅葺きの民家が数多く残り、自然の中で暮らしつつ伝統的な技や知恵を豊富に持った「百科事典」のような古老たちが日本各地にたくさんいました(実は今でもそのような人たちとの交流を続けています)。そして暮らしと密接な関係をもつ祭りや行事も残されていることを知り、これらを訪ねて大きな感動を得たのがそもそものはじまりです。
そして旅先などで訪ねる「博物館」は、未知の土地や多角的な新しいテーマとの出会いの場、情報収集の場でした。現場で実体験できる事物には限りがあります。通過するだけでは見落としがちな「宝物」の存在に気づかせてくれるのが博物館です。一時期は年間100館ものミュージアムを訪ねてきました。


研究活動

私の専門分野のひとつは民俗学。ただ武蔵美ではこの講義を担当していないので、これまで大学では私の研究テーマをあまり具体的に紹介していません。そこでこの機会にその一端を簡単に披露します。

【漁労文化の研究】

学生達と作ったマグロ漁のジオラマ(部分)

学生達と作ったマグロ漁のジオラマ(部分)

まず、青年時代に伊豆の博物館で学芸員をしたころ「海」の民俗が主なテーマでした。今では信じられないでしょうが、伊豆沿岸では大正・昭和初期までマグロ漁やカツオ漁などが行われていました。これらの勇壮な漁法や伝統的な和船、漁民の信仰などについて古老たちから聞き書きを行い、わずかに残る形跡を追体験してきました。(研究成果の一部は沼津市歴史民俗資料館の展示や紀要に紹介されています。また、その後、武蔵野美大の学生たちと学芸員実習として調査や展示に参加した活動の成果物があります。「マグロ漁のジオラマ」写真参照)。その後、鵜飼や捕鯨など日本人が海や魚類などの自然といかに関わってきたか、具体的な道具や祭り芸能などにいかに展開し、今日に伝えられてきたかをたどる旅を続けて、これらを紹介する仕事をしてきました。

【人形道祖神の研究】

新潟のショウキ様と呼ばれる人形神

新潟のショウキ様と呼ばれる人形神

日本人の信仰にかかわる造形物とくに東日本に見られる巨大なワラ人形を作る民俗信仰に注目した研究は、およそ20年間をかけて約800頁の本(『人形道祖神―境界神の原像―』)にまとめることができました(すでに絶版なので図書館でご覧ください)。このテーマの魅力を知るにはその伝承現場を訪ねるのが何よりですが、各地の博物館が取り上げてくれて、これまでに福島県立博物館、川崎市市民ミュージアム、千葉県立房総のむら、長野市立博物館、柏崎市立博物館などで関連の企画展が行われ、宮城県立東北歴史博物館では常設展で紹介されています。

【木霊の研究】

『木霊論』神野善治 白水社 2000年

『木霊論』神野善治 
白水社 2000年

「自然と人間」の関わりを樹木にまつわる民間信仰の視点からとらえた研究です。豊かな森林資源を利用し、日本人は家屋や船や橋はもとより多彩な生活器物を作り出してきました。伝説や昔話、信仰儀礼や祭礼、歌と踊りなど、さまざまな民俗事象に潜む「樹木の魂(木霊)」への思いをたどった研究です。そこでは、さまざまな分野に存在する造形物や一般には関係ないと思われているパフォーマンスが、実は目に見えない心意の糸で互いにひとつに結び付けられていたことに気づきました。その発見の感動を皆さんにも伝えたいとまとめたのが著書『木霊論』です。かなり奇妙な本ですが、ぜひいちどのぞいてみてください。

【時のフォークロア】

「時」は哲学的研究が主体のテーマですが、私はこれを目に見える造形物からたどるという試みを進めています。通信教育課程教科書『イメージ編集』に一部紹介し、2009年には「香時計」について発表しました。

【水車小屋の技と知恵】

江戸時代に創業され、今日まで武蔵野に残された水車とその技術をめぐるモノと伝承の世界に魅了されました。武蔵美卒業生グループや学芸員課程の学生たちと取り組んできた成果は、2005年秋に「回れ・まわれ・水車〜武蔵野の水車ミュージアム」と題した本学美術資料図書館の企画展で紹介できました(企画展図録・みたか水車ミュージアムおよび本学民俗資料室ホームページ参照)。2009年には、修復した水車がついに再び回り始めます。


美大生と博物館

本学では学芸員養成を行うコースを主に担当しています。学芸員の仕事はとても魅力的で、武蔵美卒業生も各地で活躍していますが、そのポストは極めて少なく、博物館をめぐる近年の社会的動向は厳しいのが実情です。私が担当する学芸員課程は芸術文化学科を除く各学科にひらかれていますが、博物館はどの学生にとっても大切な自己啓発の場であり、とくに美術館は美大生にとって重要な場所になるはずです。ぜひ気楽に訪ね、活用できる習慣と技を身につけてもらいたいと考えています。講義では一歩踏み込んだ利用方法や博物館の内側からの関わり方を学びます。
なおこの課程に「生涯学習概論」があり、実は私の担当で一番好きな講義科目です。学芸員をめざす学生だけでなく大学で学び始めたばかりの皆さんにも聞いてもらいたい内容です。学び方やその歴史について改めて学ぶことはなかなか刺激的です。講義では私自身のささやかな体験に加え、柳田國男、牧野富太郎、南方熊楠、宮本常一など達人たちの方法を紹介しつつ、自ら「学ぶ」ことのすばらしさと技を体得する機会を提供します(通教育課程教科書『ミュージアムと生涯学習』をご参照ください)。
担当科目で特筆したいのが「博物館実習Ⅰ」です。「体験」の質を高めるために、日常の学習の場から離れたフィールドでの実習をいろいろ設定しました。たとえば福島県只見町では山村の暮らしを体験し、地元の「川のミュージアム」で展示企画と作業を、長野県泰阜村の「学校美術館」では先生方や子供たちとの実習体験が思い出深いものになりました。三鷹市大沢の「みたか水車博物館」では保存活動と展示公開に関わり、地元の方々と深い絆を結ぶことができました。今後も長いスパンでそれぞれの試みを継続したいと考えています。 ページの最初へ